インタビュー
【宿で働く人インタビュー】 旅館やホテルを元気に。お客様にも働く人にとってもいい宿を 株式会社咲楽 代表取締役社長 高橋祐一さん
2026.07.09
2026.07.31
「光風湯圃べにや」は1884年に創業した140年以上の歴史を持つ老舗旅館。国の登録有形文化財にも指定された建物が2018年に火災で焼失。その後3年もの期間をかけ、2021年に以前の数寄屋造の建物の趣を残しつつ、和モダンな雰囲気の宿へと生まれ変わりました。
社長の奥村隆司さん(以下、社長)は6代目。女将の奥村智代さん(以下、女将)と共に「べにや」の歴史を守りつつ、時代の変化にあわせ新たな試みに積極的に取り組まれています。

社長「現在の宿泊業界の人材不足は深刻。私も非常に危機感を持っております。どうしても宿泊施設は24時間体制になりますし、連休などの繁忙期もあります。シフトやお休みが不規則になり、求職者からすると生活のイメージが付きにくいでしょうし、実際働いてみると家族や友達との予定も合わせにくくなる。さらに全体として平均賃金があまり高くないので、拘束時間などとあわせて考えると、わりに合わないと考える人が多いのかなと思います。機械化やAIの活用も進んでいますが、それが進みすぎると味気なくなってしまう気がします」
女将「AIの活用や効率化は必要かもしれませんが、あまり進みすぎるとお客様だけでなく、働く側も意欲ややりがいを見失ってしまうと思うんですね。特に当館では部屋食ということもあり、スタッフがお客様と接する時間が長い。『あなたに接客してもらえてよかった』と言っていただくことで、スタッフが自身の存在価値を感じてもらいやすいのではないかと思います。お客様とかけがえのない日を一緒に過ごすことができたというよろこびを共有できるのが、この仕事のおもしろさだと思っています」

社長「そうですね。やはり日々、新しいドラマが生まれるのがこの仕事の何よりのおもしろさなんじゃないでしょうか。新しいお客様はもちろん、常連のお客様でも毎回違う会話がある。今回はどのように対応していくのかを考えて、知恵を絞る。ある程度のマニュアルはあるかもしれませんが、そこから先は自分で考えていかないとお客様に満足していただけないと思います。それが難しさでもあり、おもしろさでもあるなぁと」
女将「旅館が新しくなってからは、特別なイベントなどがない時でも『楽しかった』と言っていただけることが増えました。それだけ、担当者が接客の中で自分ができることを精一杯やっているからなんじゃないかと。おもてなしは1回1回がパフォーマンスだと思っています。スタッフみんながおもてなしの楽しさを感じ、その場で100%のパフォーマンスをしようと頑張ってくれているから、『楽しい』と感じていただけるのかなと思います」
2021年の再オープンの際には、建物だけなく仕事の仕組みも大きく変更したのだそう。
社長「スタッフのお休みもそうですし、シフトの組み方も変えました。以前は部屋の担当になると、朝出て、昼に中抜け休憩を挟んでまた夕方から出るパターンが多かったんです。今は極力そういうことがないように女将にシフトを組んでもらっています。それから料理の出しやすさを考えて、テーブルと椅子を採用したのも大きな変更点です」

女将「社長の言った通り、休日を確保するというのは大事なんですが、昔ながらのやり方を残している部分もあります。例えば、常連のお客様の場合、できるだけいつも同じスタッフが担当できるようにシフトを組んでいます。その方がスタッフも責任を持って取り組めると思うんですね。それもあってか、みんなお客様の情報を積極的に共有してくれています。アレルギーなどの情報だけでなく、ちょっとした会話の内容や印象深かった出来事など、まるでドラマのワンシーンみたいに記録してくれるんですよ」
社長「そうそう。事実だけだと後で見ても思い出せないんですが、そうやって書いてもらうと、次の時もそのお客様のことがすぐに思い出せるんです。あとは、有給もできる限り希望通りに取れるようにしています。以前は少し有給を取りにくい雰囲気があったと思うんですが、今は気軽に申請できる雰囲気になっています。その分、女将がシフトを組むのが大変だと思うんですが(笑)」
女将「みんな休みを取って、リフレッシュしたり、どこかに出かけて何かを習得したり。そしてそれを仕事に生かしてくれる子が多いんです。なので、シフトを組むのは苦労しますが、お休みを取ってもらうのは大歓迎ですね」
このようにスタッフの働きやすさを考え、さまざまな改革を行ってきたお二人ですが、さらにみんなが楽しく働けるために年に3回ワークショップも行っているのだとか。

社長「楽しく働いてもらうために、楽しい職場でありたいというのが大きな目的です。通常、ワークショップというとみんなで机に向かって作業して…みたいなイメージがあると思うんですが、私たちが行っているワークショップは歌ったり、踊ったり、絵を描いたり。そんなアクティブなものです。最初はそんなことできないんじゃないのって思っていたんですが、やってみると想像以上の形にすることができて、それがみんなにとっても自信になっていると思います。時にはハプニングも起こるんですが、それすら楽しみながら乗り越えることで、チームワークも強くなっていっている気がします。3回のうち1回は縁側ライブというのをやっていて、プロのゴスペルグループの方に指導いただいて練習を重ね、お客様や近所の方々、スタッフの家族なども招待して、みなさんの前で披露します」
女将「いつかはミュージカルもやってみたいですね。あとは、社員旅行もみんな気合が入っています。道中のバスでの司会を新人スタッフが担当するんですけど、あまりに力が入り過ぎていて、最初は正直そこまでするのは…って思っていたんです。でもその仕事をやり切った子たちが、初めて任された仕事をやり遂げたってワンワン泣いていて。その後の結束力と仕事ぶりがガラリと変わったんですね。それを見て、全然ムダなことじゃないと今は思います」
社長「また、縁側ライブを見に来ていただく以外にも、地元とのつながりは大切にしています。再建中はよく生産者さんの作業をスタッフと手伝いに行っていました。今も、野菜や卵を農場や農家さんに取りに行ってもらうことはあります。そこで、ここでこんな風に育てられているんだよとかいろいろな話を聞いて、それを現場に生かしてもらえればと。逆に生産者の方にもできるだけ声をかけて、宿のイベントにも一緒に参加していただいています」
このようにスタッフの働きやすさ、地元とのつながりを大切にしながら老舗の看板を守るお二人ですが、採用に際にはどのようなことを大事にされているのでしょうか。

社長「あまり難しい質問などはしていなくて、ワークショップの動画を見てもらって、どんな反応なのかを見ています。それで笑顔が見られたら一緒にやっていけそうだなと思いますし、逆に反応がないともしかしたら合わないかもしれないと思ったりします」
女将「そうですね、やっぱり何だかおもしろそうだなとか、魅力があるなって思ってくれる方に来ていただきたいと思いますね。あとは、前向きでやる気があること」
社長「やる気があれば、和の作法や着物の着方などは入ってから覚えてもらうので全然大丈夫です。先輩社員がチューター(個別指導)のような感じで付いて教えてくれますし、もちろん女将もサポートしてくれます。それにうちではあまり細かい作法よりも笑顔を大事にしていますので、それを心がけてもらえれば大丈夫だと思います」
女将「服装についても、もちろん和服の際はそれに合わせた髪型やネイルを心がけてもらっていますが、そこまで厳しいということはないです。お部屋係のスタッフも月に何度か喫茶やフロントに入る機会があるんですが、その際はスーツを着てピアスもOKです。持ち場に合わせた服装を心がけてもらうという感じなので、そういうところもメリハリを持って楽しんで働いてもらえていると思います」
最後に、今後どんなスタッフと一緒に働きたいかについてお聞きすると、揃って「明るくてポジティブで、この環境で楽しんで働ける人」とのお答えが。
社長「あとは、家族を大事にできる人。家族が仲が良くて、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に住んでいるっていう子は、お客様にもすごく親切で仲間も大切にできる人が多いんです。一緒に働くとライバルみたいなところもあるんですが、仲間がお客様に褒められたらそれを一緒に喜べる、そんな人と一緒に働きたいと思います」
女将「そうですね、イベントはもちろんですけど、梅干やぬか漬けを漬けるとか、ちょっとした片付けや掃除など、一見するとただの作業になりがちなことも、好奇心を持っておもしろがってやってくれるような人と一緒に働けるとうれしいですね」
伝統ある老舗旅館でありながら、時代に合わせて働く仕組みを変えたり、スタッフや地元の人が楽しめるイベントを実施したり、さまざまな取り組みが行われていましたね。旅館の仕事はもちろん、こういった取り組みにも興味があれば、ぜひ求人もチェックしてみてください。
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