インタビュー
【宿で働く人インタビュー】再建後に大きく変化。時代にあった働き方、モチベーションアップを実現 光風湯圃べにや 社長 奥村隆司さん 女将 奥村智代さん
2026.07.31
現在は株式会社咲楽で宿泊施設のコンサルティング業務に携わるAさん。常に10社前後のクライアントを抱え、オンラインでの打ち合わせや時には現地を訪れるなどコミュニケーションを取りながら、各施設の問題解決をサポートされています。
そんなAさんですが、実は前職では東京都内を中心にチェーン展開するビジネスホテルに勤務。今の業務にはその経験も生かされています。しかも前職では会社初の支配人(マネージャー)に抜擢。咲楽入社後も運営ホテルの副支配人としてその手腕を発揮されていた経歴の持ち主。ですが、意外にも新卒で就職したのは派遣会社だったのだそうです。

「最初に入った会社はホテルスタッフの派遣会社でした。営業職だったんですが、とても小さな会社で、派遣できる人手が足りない時は社員が急遽スポットで入るということが日常茶飯事。そこの仕事がかなりハードで、私もいろいろなホテルに行って、朝から晩まで働いて休みもあまり取れないという状態でした。いわゆるブラック企業ですね(笑)。そんな感じで、もともと宿泊業界で働きたいと考えていたわけではなかったんです」
そんなハードな毎日の中でもホテルの仕事については、早い段階からおもしろいと感じていたと言います。
「ずっとスポーツ用品店でアルバイトしていたこともあって、接客の仕事は好きだったんです。いろいろなホテルにいって、ある時はレストラン、ある時はバンケット(宴会や披露宴など)、そのほかにもインフォメーションデスクやコンシェルジュデスクなども経験しました。そこにいらっしゃるお客様に対応したり、自分でお客様に提供できるおもしろいネタを蓄えていくといったことをするのも好きでした。常連のお客様に顔を覚えていただいて、お声がけいただけるのも楽しかったですし。それと同時に大変さも感じました」
その後、派遣会社時代に何度もスポットで働いたことがあるビジネスホテルチェーンに転職。本格的に宿泊業界でのキャリアをスタートしました。
度胸がなく、緊張するタイプというAさんですが、持ち前の粘り強さを生かして転職したホテルでも順調にキャリアアップ。女性初の支配人(マネージャー)に抜擢されます。

「私がいたホテルでは特に試験などはなく、どういう基準であがっていくのかもあまりよくわかっていませんでした。長く働くうちに、なんとなくリーダーっぽい立場になっていって、新店舗の開業などで上の人が異動になるタイミングで、なんとなく順番に上がれるという感じでした。私の場合はまず1年くらいアシスタントマネージャーを経験して、そこからマネージャーになりました」
マネージャーになったことで、仕事内容などが大きく変わったのだそうです。
「まず制服がなくなってスーツになりました。そのスーツが自前というのは、なってから知りましたね(笑)。あとは、お客様の前に立つ機会が減って、その分デスクワークが増えました。マネージャーの重要な役割のひとつが、本社の指示なり企画なりを、店舗にあったオペレーションに落とし込んでスタッフに伝えること。自分がフィルターになることで、店舗運営を円滑に行えるようにするのが大きな役割だったと思います。それから、ちょっとした故障や破損などであれば何でも直せるようになりました。例えば、壁に穴が開いたとか、窓枠がゆがんだとかですね。当時はマイドライバーを持っていて、ロッカーには作業着的なものも用意していたんですよ」
接客の機会は減ってしまったものの、管理職ならではのやりがいを感じられたのだとか。
「新しい企画なり施策をして、それに対しての直接のお客様の声ではないですが、売り上げとしてその反応をみることができる。マネージャーになるとそういう現場とはまた違った大きな視点で結果を見ることができるんです。それがやりがいだと感じました。またお客様の前に立つ機会が全くないということはないので、たまにフロントに立った際に常連のお客様とお話をするといったことには変わらず楽しかったですね」

その一方で苦戦したのが「数字を見る」というマネージャーとして避けては通れない業務でした。
「私は本当に数字が苦手で…。マネージャーの仕事は、売り上げや稼働率などの数字を見ることがメインなんです。それを見て分析したり、レポートにまとめたりする必要がありました。しかもホテルが外資系だったこともあって、レポートは英語で作成しないといけなかった。実は英語も苦手でして…。今ならAIを駆使してということもできたと思うんですが、当時はそんなことはもちろんできなくて、とにかく『負けないぞ』という気持ちだけで必死で頑張っていました。あとはホテルはたくさんの人が働いているので、人間関係のトラブル解決も大変だった点です。トラブルがあったスタッフ双方の話を聞くだけで1日が終わるなんてこともありました」
このように女性マネージャーとして活躍してきたAさんですが、同時に宿泊業界で管理職として働く女性の少なさを実感したのだと言います。

「各店舗の管理職が集まる会議に出ても女性は1人か2人。スタッフ全体でみると男女比は半々か女性の方が少し多いくらい。そう考えると、やっぱり少ないですよね。こうやってコンサルティングの仕事でいろいろな施設に関わるようになってあらためて思ったのが、特に個人経営の旅館などは女将さんや奥さんがしっかりしていて、女性の視点やこだわりが宿の運営に生かされている場合が多い。それがホテルになると経営に関わる女性はグッと少なくなってしまうんですよね」
その大きな理由のひとつに、産休や育休でキャリアが途切れてしまうことがあると感じたのだとか。
「現在では、多くの企業で産休・育休制度がしっかりしてきているので、女性にも働きやすい環境が整ってきています。ただ、どこも人手不足のため、産休・育休とはいえ、人手が削られるのは企業側には痛手になります。それでも、戻ってきた時の戦力としては相当心強いので、産休・育休明けの人材に対する企業側の期待感は大きいと思いますよ。長期の休み明けに戻って同様に働き続けたいなら、産休・育休前に、戻ってきてほしいと思われるような働きぶりを見せておくことが重要ですね」
このようにご自身が管理職の立場を経験したことが、業界での女性の活躍について考える機会になったというAさん。
「宿泊業界で働いてみて、私自身は働きにくさを感じたことはありませんでした。ほかに比べてフラットで、男女関係なく仕事がしやすい環境だと思いました。しかも、アメニティやインテリア、プラン提案など女性らしい感性やセンスを生かして活躍でできる場面がたくさんあります。実際、個人経営の旅館やホテルでは、新しいアイディアをどんどん出して実現している方がたくさんいます。組織として小さいところが多いので、明確な役職などがない場合が多いですが、そういう方はきちんと評価されていますし、宿にとってなくてはならない存在になっています。役職や管理職にこだわらないキャリアップ、活躍の仕方も宿泊業界にはたくさんあるんです」
そのように活躍するためには、「発言する勇気」が重要だと言います。
「やっぱり女性の視点やアイディアは柔軟。それを提案したり発言したりする勇気さえ持てれば活躍できるはずです。あとは発言しっぱなしにならないこと、それを心掛ければ女性も長く活躍できる業界だと思います。もちろん環境も大事なんですが、毎日なんとなくシフトをこなしていくんじゃなく、『ここで何かを残してやる』という気持ちで働くことも大事。それがあれば自分らしい働き方、活躍の仕方がきっと見つかると思いますよ」

最後に現在は宿泊業界の現場を離れ、コンサルティング業務でさまざまな施設をサポートするAさんに、今後どのようなことをやっていきたいのかお聞きしました。
「現場のことを考えた提案をしていくということは、これまでも、これからも変わらずやっていきたいことです。新たな取り組みを提案するにしても、現場に合っていなければ意味がない。現場の実情にあった提案、現場で働く人に寄り添った提案をしていきたいです。施設の縁の下の力持ちになってくださる従業員の方々のモチベーションを上げて、一緒にいい方向に向かっていけるようなサポートをしていきたいと思っています」
実際に管理職としてホテルの現場で活躍されたAさんだからこそ分かる、宿泊業界のキャリアップ事情と女性の活躍についてリアルなお話がお聞きできましたね。宿泊業界の仕事に興味があるなら、ぜひ働き方やキャリアについて考えるための参考にしてみてくださいね。