旅館

光風湯圃 べにや

能天気でいられることが幸せ。火災から再建した創業140年の老舗旅館

  • フロント
  • 接客/サービス
  • 調理人/厨房

北陸新幹線の開通で盛り上がる「芦原温泉駅」。美しい田園風景を眺めながら車で10分ほど走ると、平家建ての素敵な建物が見えてきました。ここ、あわら温泉で1884年に創業した「光风湯圃べにや」です。福井を代表する老舗旅館で、過去には伊藤博文や各皇族方、石原裕次郎さんなど数多くの偉人、著名人が泊まられたことでも有名です。2015年には数寄屋造りの建物が国の登録有形文化財に選ばれましたが、2018年火災により消失。再建を望む多くの人たちの支えも受けながら、3年の月日をかけ2021年7月に再建されました。

べにやという舞台に一緒に上がって
自分の居場所を見つけて欲しい


まず、宿に着いて目に飛び込んできたのが、奥村隆司社長と女将さんの奥村智代さんがスタッフと一緒にダンスしている光景でした。



このダンスは毎回やられているんですか?

「お昼にその時いるスタッフと踊っています。
体を動かし適度に疲れた方が、程よい力加減で仕事に挑めるんですよ。」

女将さんを筆頭に皆さん楽しそうにダンスしているので、思わず私も飛び入り参加しちゃいました。

2018年の火災で大変なご苦労もあったかと思いますが、
火災の前後で大きく変わったことはありますか?

「精神的な部分が一番変わったと思います。火災の後は誰にも会いたくなかったし、
周りの目も気にして、笑っちゃいけないと思っていました。でも知人から上田先生という方が
開催しているワークショップに誘われて、そこに参加したことで大きく変わりました」

そう話す女将さんの横で、奥村社長も大きく頷きながら、
「そのワークショプは歌って踊ったり、絵を書いたりするんですけど、
最初は火事になったのに、何で踊らなきゃいけないんだって、参加するつもりはなかったんです。
でも行ってみたら凄く楽しくて。これまで塞ぎ込んでいた気持ちが一気に吹き飛びました。」

「火災で可哀想と同情されるより、どうせやるのなら笑顔で楽しい方がいい!」「働けることに感謝し、楽しくないと前向きになれない!」そんな風に思えるようになったそうです。



今では、このワークショップの参加をきっかけに、べにやでも年3回ワークショップを開催しているそうです。

「あべこべ体験といって、調理部門がフロントの仕事をしたり、地域の生産者様のところで、沢庵やお味噌作りをしたり。『この沢庵は私が漬けたんですよ!』ってお客様とのコミュニケーションにも役立っています。」

「次のワークショプも何やりたいって尋ねたら、『ライブしたい!』って言うので、生産者様と一緒に歌ったり、お客様の前でも披露しました。見られなかったお客様には動画データを見せて『あの料理長がこんなダンスするの!!』なんて驚いたりして、楽しんでもらってます。」



以前のべにやは2階建てでしたが、現在は平屋として生まれ変わりました。
この構造の変化は職場の雰囲気も変えたそうです。

「新しい建物は、光と風をコンセプトに、どこからでも明るい光と風が通る設計になっています。平屋にしたことで、スタッフの働いている様子がよく見えるようになり、困っている時にはすぐに駆けつけるなど、うまく連携が取れるようになりました。」



以前のべにやでは部門ごとで衝突なども多く、
従業員同士が尊重し合う姿勢も少し足りなかったそうです。

「火災前のべにやでは、老舗の伝統を守る想いが強くて、べにやのおもてなしは『こうでなければならない』と、職場も少しピリピリしていたと思います。でも今は、旅館の仕事は一人一人のお客様と一緒にどう楽しく演じて、表現するか。まさに演劇の舞台に立つ役者さんと一緒なんですよね。そこに今まで気づかなかった自分の個性や可能性が発見でき、自分の居場所も見つけられると思うんです。」



最後に、奥村社長がこんな話をしてくれました。

「あるとき、仕入れでお付き合いのあるおけら牧場の方が『能天気でいなさい、能天気とは能(頭)が晴れている状態だよ』って教えてくれたんです。こらからもスタッフ、地域の方々と楽しく、能が晴れた状態を保ちながらべにやを続けていきます。」

新しいべにやは、自分たちが楽しみ、能天気でいることを大切にしながら、
未経験者も多く活躍している素敵な職場でした。
 

埼玉から移住して3年目
自分らしいおもてなしを探し続ける


続いてお話を伺ったのは、東京のホテル・観光専門学校を卒業後、新卒入社で3年目の狗川まりんさんです。


 

埼玉県入間市のご出身なんですよね。
どういう経緯でこちらに入社されたんですか?

「元々ホテリエに憧れて、都内のホテルで就職を希望していたのですが、コロナの影響で求人が少なくて。そこでエリアを広げたらべにやの募集を知りました。」

もともとホテル希望が地方の旅館に、しかも北陸には今まで一度も訪れたことがなかったそうで。

「実は、家族旅行をした時にふと仲居さんも格好いいなと。お部屋食でもあるべにやは、私が理想としているおもてなしが出来るかなと思ったんです。」

初めて見たべにやの印象はとても格好良く、
面接の雰囲気も過去受けたものとは全然違っていたようです。

「面接も都内のホテルでいくつか受けたんですが、雰囲気も固くて少し怖かったです。でも、べにやの面接は社長や女将さんが私の緊張をほぐしてくれて、そのお陰で自分の想いをうまく話すことが出来ました。」

こうして入社が決まり、研修や勉強会が始まったわけですが、ここでも少し驚いたことがあったそうですね。

「べにやの歴史や今まで泊まられたお客様を知ると、すごいところに入社したんだなと感じました。さぞ接客のルールも細かく決まっているんだろうなと思っていたのですが、べにやには決まったルールが特になくて。ある程度やり方はありますが、あとは自分のやり方・スタイルで自分らしいおもてなしを見つけていくんです。」

自分らしいおもてなしを3年間追求し続けた結果、今では狗川さんご指名のお客様も増えてきたそうです。



「帰り際に来年の予約をしてくれるお客様がいて、『来年もまりんちゃん、お願いね!』と言われた時は、おもてなしに正解はないのですが、自分の方向は合っていたのかなって。とても嬉しかったです。」

ちなみに、べにやはどんな職場ですか?

「とても温かくて、家族のような職場です。私の体調が悪い時は、女将さんがアパートの玄関にスポーツドリンクや食事をぶら下げてくれますし。地元に帰った時に、専門学校時代の友人と職場の話になるのですが、上司やお客様の話で結構ストレスを抱えている子が多いんです。でも、私は全然そういうことがなくて、お客様もあたたかくて上品な方が多いですし、恵まれている職場だなと改めて感じます。」

この職場で、家族のような温かい関係性を築きながら、自由に生き生きと働く狗川さん。
私も今度泊まる時は、ぜひ指名させていただきますね。

 

地域の生産者との繋がりを大切に
べにやの料理を創りあげる


最後に登場するのが、べにやの懐石料理を20年以上支え続けてきた料理長、村田 浩志さんです。



村田さんはもともと東京ご出身で、大塚にある豆腐懐石のお店でのアルバイトをきっかけに料理人を目指し、外資系ホテルの和食レストランを経て、2000年に「べにや」に入社されました。

「福井は縁もゆかりもない土地ですが、当時交際していた彼女(現:奥様)の実家が福井だったので、こちらにやってきました。」

そうだったんですね。福井に来たきっかけが彼女とは、クールな印象の村田料理長の口から出るとは思わなかったので、そのギャップに良い意味で驚きました!都内のホテルから旅館に来て、印象はどうだったのでしょうか。

「旅館の懐石というと、出来合いのものが多いのかなと思っていましたが、べにやでは一品一品手作りだったので、丁寧に作っているなという印象でした。」

ホテルのレストラン勤務時代も出来合いはなかったので、自然とここの調理場に馴染めたそうです。

そういえば、この調理場には窓があって、お客様からも見えるようになっているんですね。
 



「はい。お客様から見えるので普段から清潔に身だしなみにも気をつけて、格好良い姿をお見せできるよう心がけています。お客様も帰り際にお褒めの言葉など声をかけてくれるので、以前よりもお客様との距離が近くなりました。」

もう一つ、この見える調理場にしたことで変化があったそうですね。

「実はこの見える調理場にしたことで、注意している声が外に漏れやすくなったんです。客室係からも『声が聞こえてますよ!』って指摘されたりして。今は普段から、例えばま〜君とかニックネームで呼ぶようにして、指導する時は言葉使いや接し方にも気をつけるようにしています。」



身だしなみ以外も、お客様にいつ見られてもいいように、時には冗談を言いながら、明るい雰囲気の調理場を目指しているそうです。

ところで、べにやの食のコンセプトは「テリトーリオ」。その言葉には、地域のたくさんの生産者との繋がりを大切にするという想いが込められているそうです。



「地域の生産者から直接仕入れをしていて。最近はLINEなどを利用して『いいヤングコーンがあるよ』というような情報もすぐにキャッチできるので、その時々で食べられる旬な食材を提供しています。本当は、一箇所から仕入れする方が管理も楽なんですけどね。でも、お客様がとても喜んでくれるので、これからも続けていきたいです」

地域の生産者の方々と連携しながら、村田料理長のあくなき挑戦はこれからも続いていきそうです。
 

福井を代表する老舗旅館は建物だけでなく、働き方も大きく生まれ変わりました。
あなたもべにやという舞台に、一緒に参加しませんか。
 

(取材・執筆:水元 勇)




 



 


 



 

もしもこの宿ではたらいたら?

近隣情報

家賃相場
1K〜1DK(5万〜6万)
買い物
コンビニ(270m)、スーパー(800m)
その他施設
病院(230m)、歯科(350m)、小学校(600m)
交通情報
・芦原温泉駅(車で10分)
・あわら湯のまち駅(徒歩5分)

自治体情報

基本情報

数字で見る

  • 平均残業時間

    30時間

  • 年間休日

    105

  • 年間有給休暇
    取得率

    50%

  • スタッフ数

    40

  • 男女比

    1 男性 : 3 女性

  • 外国籍の人数

    3

  • 平均年齢

    35.0

企業名
株式会社べにや旅館
企業所在地
〒910-4104
福井県あわら市温泉4-510
施設名
光風湯圃 べにや
アクセス

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