旅館
吉川屋
創業185年の老舗旅館に宿る人の想いと物語
- 接客/サービス
- 調理人/厨房

本日は東北新幹線の福島駅から飯坂線に乗り換え、窓から見える美しい冬景色を楽しんでいると、約20分で飯坂温泉駅に到着しました。冬の澄んだ空気に包まれると、心がすっと落ち着くような感覚が広がります。
そこから車で約5分にあるのが「穴原温泉(奥飯坂温泉)吉川屋」です。
創業はなんと天保12年(1841年)で、今年185年目を迎える老舗旅館です。
自分の使命は料理人を育て
この地域の魅力を発信していくこと
最初にお話を伺ったのは、吉川屋の総料理長 大友博幸さんです。東京浅草の日本料理店で料理人キャリアをスタートし、12年前に宮城県秋保温泉の宿泊施設から吉川屋にやって来ました。
昔と今では料理の工程も随分と違うのでしょうね?
「そうですね。昔は真空包装の機械もなかったので、魚を70度のお湯で洗った後、発泡スチロールに穴を開けて氷と塩で鮮度を保っていました。今の人はそんな方法は知らないでしょうね」
昔は工程についてちょっと質問しただけで『うるせぇ、見て覚えろ!』が当たり前だったそうです。
しかし、今は時代が違うと大友さんは話します。
「『これってどうやって作っているんですか?』って聞かれたときにさ、普段あまりやらない料理でもちゃんと作って見せて、きちんと説明できるのが大事なんです。自分が昔されて嫌だったことは、やっちゃいけないんです。せっかく夢を持ってこの世界に飛び込んできてくれたのですから」
大友さんは新しい献立のアイデアなども、積極的に他のスタッフから
意見を聞いてお客様に提供しているそうです。
「前の料理長はすべて自分が考えた献立を、持ち場のスタッフがそれぞれ作るスタイルでしたが、
今は調理場スタッフに煮物や焼き料理の献立を考えさせています。そこに僕が知らないアイデアや能力なども発見できますし、うちの社長もよく言うのですが、『失敗がなければ、成功もない』と。今後もみんなにはどんどん新しい献立作りにチャレンジしてもらう予定です」
福島は食の宝庫ですよね!私、福島の桃が大好きなんです。
「近くに花ももの里というとても綺麗な場所があるんです。今は桃の花が咲く季節しか活用されていないのですが、マルシェを開いたり、夜はライトアップしたり、冬にはかまくら作りなど、一年中楽しめるイベントをやりたいんです。今、社長にも相談していますが、うちの施設だけじゃなくて、飯坂温泉全体に足を運んでもらえればなって考えています」
地元のケーキ屋さんとコラボレーションしたメニューも考えているそうで、
お店の活性化にも力を注いでいます。
さらに、大友さんが力を入れているのが発酵食品 です。
「発酵を研究している大学から資料をもらって勉強もしましたが、理論上は理解できるのですが、実際やってみると本当に難しくて」
長年試行錯誤を繰り返しながら、
今はお刺身用の麹醤油を提供していて、
今後も発酵食品を使った献立を増やしていくそうです。
最後にもう一つの使命を語ってくれました。
「後継者を育てること。それが私の大事な仕事でもあります。1年でも良いので、東京や大阪のお店に体験で修行できるようにしてあげたいです。帰る場所はここ“吉川屋”があるので、安心して修行に行ってこい!と送り出したいですね。私の時代にはそういうことが出来なかったので」
大友さんは、仲間がもっと休める環境を作りたいそうで、
未経験の方も大歓迎だそうです。
地域と仲間が大好きな料理長と一緒に、はたらいてみませんか。
自動車業界からやって来た
旅館の司令塔
館内の歴史物を鑑賞しながらラウンジロビーに向かうと、
目の前に壮大な雪山の景色が広がって来ました。
「この山は当館が所有している片倉山です。四季折々の景色が楽しめて、時々鹿や猿も見られますよ」
そう教えてくれたのは、接客部フロントサービス課の課長 熊倉 典雄さんです。
熊倉さんは名古屋で自動車販売をしていましたが、お母様の関係で実家に戻り
7年前に入社しました。
全く違う仕事をされていたのですね。
不安などありませんでしたか?
「畑違いの仕事なので最初は不安でしたが、お客さまを喜ばす点では前職でも一緒で、共通するところも多かったんです。フロントの仕事は司令塔の役割もあるので、最初の頃は全てに対応するのが難しかったです」
先輩や同僚に色々と教えてもらいながら、徐々に仕事に慣れていった熊倉さんは、
2年目にはすでに係長になっていたとか。早いですよね!
「1年で主任になる人もいますよ。僕はこのまま課長でいいんですけど(笑)」
いえいえ、熊倉さんなら次にお会いする時は部長になっているかもしれませんよ。
課長として心がけている点などありますか?
「毎日出勤するメンバーには必ず声をかけて、様子を確認しています。僕は役職者だからといって、態度とか接し方を変えるのは嫌いなんです。現場のスタッフとは常に同じ目線でいたくて、スタッフからはタメ語で『熊ちゃん』と呼ばれています。みんなから見て僕は課長ではないんです(笑)」
何でも言い合え、垣根がない職場なので雰囲気も明るく、
仲も良いのでスタッフ同士でよく飲んでいるそうです。
異業種から来た人の方が、新しい視点で気付くことも多いと
聞いたことがあるのですが、何か改善したことはありますか?
「昔はPHSを各自1台持っていましたが、通信状態の影響で指示がうまく伝わらないこともありました。そこで社長に相談して、当時旅館では珍しかったインカムを導入したんです。タイムリーに指示とか、状況などが周りのスタッフにも聞こえているので、漏れがなくなりましたね」
インカムの導入によって、まさに司令塔でもあるフロントとしての役割を発揮し、
最近はタブレットも導入して、チェックインの時間も早くなったそうです。
ところで、社員食堂があるとお聞きしたのですが。
「はい、ご飯と味噌汁は無料で、100円で買えるおかずの自販機があります。おすすめはカレーで美味しいですよ!」
安くていいですね!
今日のお昼はそれにします。
吉川屋では熊倉さんをはじめ、広告業界出身のスタッフがSNSの発信を強化しているそうで、
異業種から来た人たちが、たくさん活躍している職場でした。
47歳の新入社員
子供に格好いい姿を見せてあげたい
次にお話を伺ったのは、フロントを担当している味戸(アジト) 和彦さんです。
入社されたのはいつ頃ですか?
「去年の11月に入社したので、まだ3か月しか経っていないんです」
えっ、そうなんですか!
「はい、以前はファッションが好きで郡山にある百貨店で働いていたのですが、閉館になってしまって。
次もやっぱり人と接する仕事が良いなって思い、入社を決めました」
どうして吉川屋さんを選んだのですか?
「他の宿泊施設も検討していましたが、社長と面接した時に、すごく従業員のことを考えているなって
感じたんです。毎月休館日を設けて休みをしっかり取れるようにしているし、一般採用だと夜勤がなく、中抜けもないんですよ」
夜勤や中抜けがないのは珍しいですね。
残業もあまりないので、規則正しい生活が出来ているそうです。
宿泊施設での仕事は慣れましたか?
「まだ覚えることがたくさんありますね。最初宿泊業界って、高い接客スキルが求められ、ビシッとしてないといけないイメージを持っていたのですが、実際入ってみると、みなさん和気あいあいとやっていて、相談もしやすく、時々事務所からも笑声も聞こえて、とても、はたらきやすい職場でした」
47歳で新しい挑戦を始めた味戸さんは、
ようやく今、ちょっとずつ慣れてきたそうです。
「お客様も毎日違うので、同じ一日がないんです。様々な要望をお聞きして、それを実現できた時に感謝されると、とてもやり甲斐を感じます」
この地で生活するのも初めてなんですよね。
「はい、今は単身赴任で敷地内にある寮で暮らしています。とても快適で、休みの日はネットフリックスを見てリラックスしています」
今後は地元の飲み屋さんや、共同浴場にも行って、地元の方との交流を
深めていきたいそうです。飯坂温泉の友達が増えそうですね。
今後の目標とかありますか。
「まずはフロント業務を覚えてから、他の部門も経験して全体的に見られるようになりたいです。早く一人前になって、家族に泊まってもらい、子供にパパの格好いい姿を見せてあげたいです(笑)」
味戸さんなら、先ほど登場した熊倉さんのように、
1年後には主任、2年後には課長になっているかもしれませんね。
漫画をこよなく愛する社長が描く
未来のストーリー
最後に185年続く老舗旅館を率いる社長はどんな方なのでしょう。
少し緊張しながら、会議室に向かいました。
優しそうな笑顔で迎えてくれたのは、代表取締役社長 畠 正樹さんで、
7代目の社長だそうです。
漫画を描くのが得意とお聞きしたのですが。
「小学校時代から漫画を描くのが好きで、友達も登場させたらすごく喜んでくれて。漫画家になるつもりで上京して、漫画でアルバイトしながら自分の作品も持ち込んでいました」
漫画を描く才能は、吉川屋でも早速活かされます。
「170周年の時に、昔飯坂温泉にいた絵描きさんが書いた絵をモチーフに吉川屋のキャラクターを作ることになったのです。ただ、少し恐ろしい雰囲気で怖かったので、私がそれを親しみやすいように描き起こしたんです」
飯坂の奥座敷穴原温泉の開湯伝説に出てくる「川の女神」の力で、
弁財天になった姿で登場する、そのキャラクターの絵は館内にも飾られています。
グッズも発売したそうですね。
「それが全然売れなくて、スタッフから『売店から撤去していいですか?』と言われた時は、
チクショーって思いましたね(笑)」
185年続いているので、伝統を重んじる雰囲気なのかなと勝手に想像していましたが、
インカムの導入もそうですけど、昔から新しいことをやる社風だったのですか?
「創業180年の時に吉川屋の歴史を改めて振り返ったんです。戦後の頃は飯坂温泉から穴原温泉まで人力車で来ていましたが、すでにアルファベット表記のパンフレットや、ロビーに蓄音機を置いてアメリカのレコードを流していたんです」
戦後すぐにアメリカの文化を取り入れていたなんて。
当時は珍しかったでしょうね。
「昭和30年代に入ると新婚旅行ブームが訪れました。ベッドルーム付きの和洋室をすでに備えていたこともあり、多くの新婚夫婦にご利用いただきました。振り返ってみると、その時代ごとに新しい挑戦を続けてきたのだと実感しました。その精神が代々受け継がれ、今では『吉川屋イズム』として根付いているんだと思います」
それではこの時代に求められるリーダー像って
どんなものでしょうか?
「昭和はトップダウン型のリーダーシップが主流だったが、現代は個性を活かし、仲間と協力する時代へと変化しました。まさに漫画『ONE PIECE』のルフィのように、一人ひとりの強みを尊重し、共に成し遂げるリーダーシップが求められているのだと思います」
社長は、事業を存続させ、働きやすい職場環境を作ることが、
自身の役割だと話します。
「社長が偉いわけではなく、私はオーケストラの指揮者だと思っています。接客は接客のプロが、料理は料理のプロが担う。私の役割は、みんなが最高の音色を奏でられるように導くだけなんです」
次の190年、200年に向けて、
何か考えていることはありますか?
「コロナを経てリモートが普及し、宴会の機会も減りましたが、やはり宴会は大切だと感じます。日本人は縄文時代から宴を大切にしてきました。宴会場をビュッフェ会場にする案もありましたが、残しておいて正解でした。団体のお客様も戻りつつあり、和の精神や一致団結を深めるこの文化は、これからも大切にしていきたいですね」
だから館内に縄文土器があるのですね!
「そうそう、あれは本物なんですよ。縄文の話をし始めると止まらなくなるので(笑)。それはさておき、吉川屋のコンセプト『ココロとカラダに優しい宿』を突き詰めると、まずは温泉。吉川屋の温泉は『ぐっすり眠れる』と評判です。さらに、食事は大友料理長が力を注ぐ発酵食品が鍵で、伝統の和食と組み合わせることで、免疫力を高める効果も期待できるんです」
食事と温泉効果で、私も昨日はぐっすり眠れました!
カラダは分かりましたが、“ココロ”は何でしょうか?
「地域の生産者や自然には、それぞれのストーリーがあります。吉川屋を通じて、そんな物語を体験できたら素敵ですよね。こうした体験が、湯治から始まった吉川屋の歴史につながっていきます。『ここに来ると元気になれる』『自分らしさを取り戻せる』。そんなストーリーが生まれる場所を目指したいですね」
漫画が大好きな畠社長は、漫画の名作を集めた
ブックラウンジも造りました。
あなたもココロに残る特別な物語を一緒に創りに来ませんか。
(取材・執筆)水元 勇
もしも、この宿ではたらいたら?
近隣情報
- 家賃相場
- 1K〜1DK(5.7万〜6.3万)
- 買い物
- コンビニ(1.0km)、スーパー(2.6km)
- その他施設
- 病院(車で20分)、歯科(1.9km)、中学校(3.7km)
- 交通情報
- 福島飯坂インター(車で12分)、飯坂温泉駅(車で5分)
自治体情報
ギャラリー
基本情報
数字で見る
-
平均残業時間
12時間
-
年間休日
105日
-
平均勤続年数
6年
-
年間有給休暇
取得率25%
-
スタッフ数
99名
-
男女比
4 : 6
-
外国籍の人数
12人
-
平均年齢
47.6歳
- 企業名
- 有限会社 吉川屋
- 企業所在地
- 〒960-0282
福島県福島市飯坂町湯野字新湯6 - 施設名
- 吉川屋
- 客室数
- 100
- 従業員数
- 97
- 設立
- 1951年12月19日
- 家賃補助
- あり
- アクセス
-
よくある質問
寮からの移動時間?
敷地内にあるため徒歩5分です。
近くのコンビニは?
セブンイレブンが徒歩15分であります。