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【宿で働く人インタビュー】 宿泊業界全体の底上げを。その手本となる施設を目指して 赤城山-懐- 支配人 伊藤貴弘さん

2026.03.05

宿泊施設の責任者として、業績や施設・設備の管理やスタッフの統括など幅広い業務を担当するのが支配人です。その仕事の内容についてはあまり知られていないかもしれませんね。今回は、老舗旅館を改装しリニューアルオープンした、愛犬と過ごせるくつろぎの宿の支配人、伊藤貴弘さんにお話をお聞きしました。

サービス業を極めたいと留学。大使館のバトラーなどを経て地元にUターン

伊藤さんが支配人を務めるのは、赤城山麓にある「愛犬と泊まれる古民家リトリート 赤城山 ー懐-」。全14室、すべての客室が愛犬同伴可で、自然に囲まれたドッグランを有し、食事も一緒に楽しめる宿です。

支配人の伊藤さんは、実はかなりユニークな経歴の持ち主。大学時代に飲食店でアルバイトをしていた際の経験から「サービス業を極めたい!」とスイスに留学、帰国後にホテルや飲食店の仕事のほか大使館のバトラーの経験があります。

「大学時代、周りは普通に就職活動をしていたんですが、それに違和感があるというか嫌だなと思っていて。自分はもっと好きなことをしたいなと。当時、飲食店でアルバイトをしていたんですが、その時にとても印象に残る出来事がありまして。赤ちゃん連れのお客様が固い椅子にその子を寝かせていたんです。そこに倉庫からおしぼりの束を持ってきて『これを敷いて寝かせてあげてください』って渡しました。そうしたらそのお客様がお会計の際に感謝の気持ちを綴った1枚の紙をくださったんです。それがすごく心に残って。もっとサービス業を極めたいなと思いました」

そこで情報収集をした結果、スイス留学を決意したのだそう。

「いろいろ聞いてみたら、サービスやホテルの世界の最先端はスイスだっていうことだったので。単純なんですが、それなら行って勉強しようと思って、留学を決めました。スイスのモントルという場所にあるSHMS(スイスホテルマネジメントスクール)という、日本でいうと専門学校のようなところで勉強しました。300人くらいの生徒がいる中で、日本人は当時8人くらいでしたね」

帰国後はホテルや飲食店で働いたり、専門学校の講師をしたりしていたのだそうです。そんな中、人からのすすめでオーストラリア大使館のバトラー募集に応募したのだとか。

「自分の中でサービス業という軸はずれていませんでした。大使の専属執事と大使公邸のマネージャーという仕事は、常に先回りをして動くということを求められました。主な仕事は、大使の身の回りのこと、お客様をお招きした時のおもてなし、あとは警護や警備のような業務も兼ねていたので、警察の方と協力して動くことも多かったですね。サービス業は基本、笑顔なんですが時には怖い顔をして対応しなければいけないこともありました(笑)。そういう意味でもまた違うサービス業を勉強できたと思います」

その後もさまざまな施設で働き、6年ほど前に地元の群馬に戻ることに。家族で暮らす環境や子育てのしやすさなどを考え、Uターンを決めたのだそうです。

支配人の仕事は「決断すること」。困難を乗り越えるのも楽しみ

地元に戻り、ほかの宿泊施設の支配人などを務めていたそうですが、現在の宿への転職はどのようなきっかけからだったのでしょうか。

「群馬のいろいろな企業で働くうちに、サービス業から人が離れてしまう理由をひしひしと感じていました。その中で出会ったのが現在働く宿を運営する株式会社咲楽の高橋社長です。社長の宿泊業界の課題に真摯に向き合う姿に共感できる部分がかなりありまして。私もそういうことをやっていきたいんだけど、できなかった…。あらためてそれを叶えたいなと思いまして、転職を決めました。その際に募集していたこの宿の支配人の求人に応募したんです」

これまでもさまざまな施設の支配人経験がある伊藤さんですが、支配人の仕事についてお聞きしました。

「支配人の仕事はひと言で言うと『決断』ですかね。いろいろなことを決めてあげて、それに対して責任を持つということが大事なんじゃないかと思っています。もちろん自ら課題を抽出してその対応策を講じるということも大事ですが。あとは常に全体を引きで見る。あまり現場の業務に首を突っ込み過ぎないようにしています。かといって、忙しくて手が回らないようなときは、そんなことを言っている場合じゃないので、首も突っ込みますし、手も出します。そういうところはメリハリが大事です。一番はお客様に満足頂いて帰すこと。そのために、じゃあ今何をしないといけないかを考えることが大切ですね」

伊藤さんがやりがいを感じるのはどんな時なのでしょうか。

「意識してできるだけお客様の前に出たいと思っているんですが、やはりなかなかそうもいかない。やっぱり接客できる機会は少ないかもしれません。経営者ではないんですけど、そういう面もありますし、私はそういう視点で施設を見るように心がけています。時には『うわ、そうきたか!』と思うようなハプニングが起こることがあるんですが、そういうピンチというか大きな壁があっても、できるだけ楽しむようにしていて。それを乗り越えたときの満足感は格別です。それが今のやりがいですかね」

逆に大変なことについてお聞きすると、古民家宿ならではの苦労を教えてくださいました。

「真っ先に浮かぶのは施設のことです。古民家ということもあり、所々傷んでいるので。これは今も試行錯誤中なのですが、古民家の良さを生かしつつ、常にお客様に安全、安心を届けられる環境を維持していきたいと思っています」

宿泊業界で働く中で、宿の運営や経営に興味を持つ人もいるかもしれません。支配人になるためにはどのようなことが必要なのでしょうか。

「支配人の仕事として施設全体を俯瞰で見るということが重要なので、そのためにはやっぱりある程度経験が必要だと思います。そういった能力は現場でコツコツやっていくことで身につくと思うので。もちろん他業種から転職されて支配人になる方もいらっしゃいます。そういう方の良さもあると思うんですが、なかなか現場の気持ちがわからない部分もあると思うんです。それよりも現場で幅広い仕事を経験してなる方が良い支配人になれるのではと思います」

何か勉強しておくと役に立つことなどはあるのでしょうか。

「数字の見方などは、なってからでも勉強できますし、やっているうちに見られるようになります。それよりも大事なのは、逃げないことかなぁと。現場からの意見やお客様からのクレームなど、日々施設ではいろいろなことが起こります。そういったさまざまなことから逃げない、自分が全部受け止めるんだという気持ちでいることが支配人という仕事をする上で大事なことだと思います」

目標は業界の底上げ。スタッフの成長を見守るのもやりがいの一つ

支配人の立場から採用の際に心がけていることなどについてもお聞きしました。

「明確な基準があるわけではないんですが、私がお客様だったらこの人に接客されたいかどうか。もう一つ大事にしているのが、チームのバランスです。今のチームで働いている場面を想像して、ほかのメンバーとどうかなと考えます。施設のスタッフの雰囲気ってすごく大事だと思うんですね。ギスギスしているとくつろげないですし。サービスはもちろんですけど、そういうベースの部分も大事だと思うので、そういったことを考えながら採用の面接に臨むようにしています」

そんな伊藤さんが感じる宿泊業界の魅力とは?

「ひと時ではありますが、人の基本である衣・食・住を提供するのが宿泊施設。しかも日常よりもアップグレードされたものを提供しているんですよね。そんなちょっと特別な時間を過ごすお手伝いができるのが、この仕事の魅力であり、やりがいだと感じています」

最後に伊藤さんの今後の夢についても伺いました。

「やっぱり業界の底上げをしたいなというのがあります。ほかの施設でも、本当はこうしたいんだけどできない…みたいなことがあると思うんですよね。まずはここがお手本になれるような施設作りを目指していきたいなと思っています。あとは地域の活性化とペット業界の活性化のお手伝いもできたらいいなと思います」

また身近なところでは、スタッフの成長を見守ることも、この仕事の楽しみの一つだと言います。

「何もわからなくて入ってきた子が、いろいろ学んですごくいい接客ができるようになって、お客様に『あの人がいるからまた来ます』と言われるようなところまで成長するんです。そんな姿を全部見られるわけではないですけど、見守ることができるというのもこの仕事の醍醐味だと思います」


なかなか知ることのできない宿の支配人のお仕事について、いろいろ教えていただきましたが、いかがでしたか? 将来的に宿泊施設の運営や経営などにも携わってみたいと思うなら、ぜひ参考にしてみてください。

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